材木座 ー ながながし夜をひとりかも寝む

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2002年、私は思うところあり、鎌倉の材木座に古びれた一軒家を借りて侘しい一人暮らしをしていたのでした。

そろそろ寒さが身を切るようになってきた初冬の夜。もう深夜12時をとっくにまわり、逗子行きの横須賀線下り最終電車の音も絶えてかなりたったころ、私がいつものとおり一階の床の間のある八畳の和室の真ん中にひいた万年床の上で布団にくるまり、

「さぁもう寝るべ...」

と部屋の電気を消したとたん、枕もとにおいた携帯がなったのでした。

「ありゃ、いったいどこのどいつだ...こんな時間に...」

と、携帯の画面を見ると、和風な顔立ちなのにたて巻き髪がゴージャスすぎる「美人」(仮にXさんとしましょう)の名前が暗闇に浮かび上がっています。

これはなんかご不幸でもあったのか、とすこし緊張しながら、

「もしもし...」

と電話に出ると、Xさんがなんだか場違いに弾んだ口調で

「ウフフ...わ・た・し...」

と一言。

深夜の訃報かと心構えていた当方にしては、不謹慎すぎる。

「どうかしましたか?」

と、いささか不機嫌に応えると。

「私...来ちゃったの...」

えっ?いくらこっちが単身赴任状態とはいえ、妻子ある身の私を慕って美女が都心から鎌倉くんだりまでやってきてしまった、というのは...コリャ「事件」だ。

そのとき、私の頭の中には、最終電車も過ぎて人影もまばらな鎌倉駅の駅頭にたたずむXさんの姿がよぎったのでした。

(こまったぞ。この時間じゃ電車もないし、いまさら帰れともいえないし。)

と、ひたすらあせりまくって、

「今、どこにいるの?駅?南口?北口?」

と聞いたら。

「えへっ...もう下にきちゃってるんだ...。」

あれ?

下...って、万年床の下の畳の下は「エンの下」なんですけど。

すっかり混乱してしまった私の頭の中で、Xさんの姿がなぜか「水戸黄門」かげろうのお銀の由美かおるさんとかさなってしまった。

そこへXさんはたたみかけるように、

「ねぇ、私このままロビーで待っていようか、それとも今すぐあなたの部屋まで行っちゃっていいかしら。」

なんだ、間違い電話か、とやっと事態が把握できた私。

このまま騙しつづけたほうが面白いかな、相手が誰なのか突き止めようかな、などと思いましたが、それじゃ彼女の一途な恋心があまりに可哀想なので、すぐに言ってあげました。

「Xさん。電話番号間違ってるって。」

といったとたん、いままで猫なで声だったXさん突然悲鳴をあげて

「キャー!!!」

「じゃおやすみなさい。」

いまこのエピソードを思い出して考えてみると、これが笑い話として成立しているのは、こっちの早とちりの部分が大。自分をしょっているのは相変わらずだなと、しばし反省してみたりするわけです。

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